話術

福井 栄一Fukui Eiichi

Recommendation

  • 柴田鳩翁『鳩翁道話』(岩波文庫 1957)

われた話芸、道話の名人と
ひとを魅了する
コミュニケーション技術

Speaker

福井 栄一(ふくい えいいち)

上方文化評論家

上方文化評論家。1966年、大阪府吹田市出身。京都大学法学部卒。京都大学大学院法学研究科修了。法学修士。四條畷学園大学看護学部客員教授。京都ノートルダム女子大学国際言語文化学部および関西大学社会学部の非常勤講師。上方の芸能や歴史文化に関する講演、評論活動を精力的に行い、マスコミ出演も多数。剣道2段。著書は『十二支妖異譚』『鳥禽秘抄』など、合計40冊以上にのぼる。

Fukui Eiichi

柴田鳩翁は江戸時代後期の京都の町人にして、心学者。45歳で失明、57歳で没するまで12カ国を巡説した。
主に商人を対象に、陽明学のエッセンスを軽妙洒脱なエピソードを織り込みつつわかりやすく、そして受け入れやすく語る「道話」の名人として人気を博した。
その「講演記録」である『鳩翁道話』は、刊行されると同時にベストセラーとなり、続いて続編、続々編、そして拾遺までが刊行されるほど、幕末の不安な社会において、迷える庶民の愛読書となった。

上方文化評論家として活躍する福井栄一氏の、文字通りの座右の書。講演やテレビやラジオで、初対面、不特定多数の聴衆を相手に話す機会の多い福井氏にとっては、読むたびに自らの話術を磨くための発見があるという。その内容の面白さはもとより、鳩翁の道話を聞くために集まった人々の個性に合わせて、時には逡巡しつつも、臨機応変に話を組み立て、聴衆の心を「つかみ」、魅了し、自らの語りの世界に引き込んでいくコミュニケーション・テクニックが満載されているところも、福井氏にとって『鳩翁道話』を繰り返し読み続ける際の大きなポイントである。

メディアが多様化しつつも、「心」や「気持ち」を共有することが難しくなっている現代においてこそ、かつての話術、話芸の技術には新たな可能性があるのかもしれない。

また大阪の古書店、天牛書店の江坂店 は、福井氏にとって、年に数十回訪れる愛すべき場所であり、できればその一隅に住みたいと語るほど、生活の一部となっている。そんな天牛書店の隅々まで、福井氏の思いを込めて案内していただいた。古書と出会い、手に入れ、読み込むことで、福井氏自身のあり方が変わり、そして語りも変わっていくという。

index