Speaker
祖父江 慎(そぶえ しん)
デザイナー
1959年、愛知県出身。多摩美術大学グラフィックデザイン科中退。装幀家。コズフィッシュ代表。人文書、小説、漫画などの書籍の装幀、ポスターなどのデザインを幅広く手がける。吉田戦車の漫画本をはじめとして、意図的な乱丁や斜めの裁断など、装幀の常識を覆すデザインで注目を集める。NHKドラマ「夏目漱石の妻」ではタイトルロゴを制作。仕事集『祖父江慎+コズフィッシュ』、絵本著作『もじのカタチ』、共著『文字のデザイン・書体のフシギ』『オヤジ国憲法でいこう!』などがある。
Sobue Shin
「ピノッキオの冒険」の物語は、一般にはウオルト・ディズニーによるアニメーション「ピノキオ」によるイメージが定着しており、日本でもクジラ(原作ではサメ)に飲み込まれるシーンや劇中歌「星に願いを」が連想されがちだが、原作はかなりニュアンスが異なる。
原作者のカルロ・コッローディはイタリアの作家。子どもたちが心から楽しめる物語をつくろうと、勉強と努力が嫌いで、すぐに美味しい話にだまされるピノッキオのお話を執筆、1881年に週刊『子ども新聞』で連載をはじめた。
アニメーションの「ピノキオ」がディズニーらしい予定調和の物語であるのに対して、「ピノッキオの冒険」はしばしば物語は荒唐無稽を通り越して破綻しそうになる。往々にして、女神様の登場で、そんな破綻が解消される。いわゆる「女神オチ」である。また、一部分だけを取り出すと、ピノッキオが首を吊られるような怖くて残酷だと思われるような場面もあるけれど、そこには邪気はなく、あくまでも子どもたちがハラハラ楽しんで読むための工夫なのである。そんなところは、赤塚不二夫や水木しげるの漫画にも通じる、と祖父江氏は言う。
世界と日本のピノッキオの本を本棚3本分もコレクションしている祖父江氏は、特にピノッキオの挿絵に注目してきた。「不思議の国のアリス」のように著者からの挿絵の指示指定がない分、イラストレータたちは、その想像力を存分に発揮している。最初の挿絵画家は『子ども新聞』連載時のエンリコ・マッツァンティだが、以降、各国で様々なタイプの挿絵が描かれ続けてきた。中には物語の残酷さを強調したものもあるが、やはりピノッキオの挿絵は楽しくなくては、と祖父江氏。
そんな祖父江氏自身も、ピノッキオをモチーフにしたスケッチを、ノートブック数冊分も書き溜めている。