追体験

土取 利行Tsuchitori Toshiyuki

Recommendation

  • 「三教指帰」
    『弘法大師 空海全集 第六巻』
    (筑摩書房 1984)

郷を同じくする空海の
青年期の著作に
その知られざる凄さと可能性を読む

Speaker

土取 利行(つちとり としゆき)

パーカッショニスト/ピーター・ブルック劇団音楽監督

1950年、香川県多度津町出身。音楽家・パーカッショニスト、マルチインストゥルメンタリスト、フリージャズ、演劇音楽(ピーター・ブルック劇団のロングコラボレーター)、古代音楽、民族音楽・民俗音楽など、複数のジャンルに取り組む。1981年、パリで日本のうたもの、語りものを追求する三味線演奏家・音楽家の桃山晴衣と出会い、87年に、岐阜県郡上八幡に活動の拠点として茅葺きの芸能堂「立光学舍」を桃山と共同で設立。音楽作品(レコード、CD)に、「オリジネーション」「銅鐸」「磬石」「縄文鼓」「水霊の歌」など多数、著書に『螺旋の腕』 『縄文の音』 などがある。

Tsuchitori Toshiyuki

弘法大師空海、幼名は真魚(まお)。その名前は、「弘法筆を選ばず」「弘法も筆の誤り」などのことわざを通じても、日本人には馴染み深い。

真言宗の開祖として高野山を開いたことで知られ、能書家としては、嵯峨天皇、橘逸勢とともに三筆の一人に数えられてもいる。 また京都の神泉苑における雨乞い伝説をはじめ、東北から九州にいたる全国各地に、泉や温泉にまつわる伝承が残されている。出家以前には官僚になるためのエリート教育を受け、中国語を習得し、和漢の古典にも通暁していた。

著作としては、当時の思想を集大成し、その最上位に真言密教を置いた『秘密曼荼羅十住心論』が取り上げられることが多いが、土取氏はその若き日の作品『三教指帰』に注目する。『三教指帰』には、儒教、道教、仏教を代表する人物が登場。対話形式で物語が展開し、最終的には仏教の優越性が説かれ、空海自身の出家宣言の書になっている。流麗な四六駢儷体で書かれた同書は、執筆当時、若干24歳出会った空海が、すでに並外れた教養の持ち主であったことを明かしている。

土取氏は空海と同郷、讃岐の多度津出身であり、かつて空海が見たであろう風景の中で育ち、幼い頃より空海を身近な存在として感じてきた。また自身がミュージシャンであり、ピーター・ブルック劇団で長年音楽監督をつとめていたこともあって、『三教指帰』を優れた戯曲作品として独自の視点から捉え直している。

土取氏の関心は、さらに『三教指帰』以前の空海の幼少期に向かい、これまで空海研究者たちにはあまり取り上げられてこなかった母親の玉依御前をめぐるフィールドワークも行ってきた。ここでは、土取氏自ら作詞作曲、演奏した「玉依御前のうた」(歌は松田美緒)も紹介する。

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