実体化

武藤 政彦MUTTONI

Recommendation

  • 萩原朔太郎『萩原朔太郎詩集』(新潮文庫1950)

学作品のイメージの世界を
人形たちが演じる
不思議舞台のつくり方

Speaker

武藤 政彦(ムットーニ)

自動人形師

自動人形師。1956年 横浜市に生まれる。通称のムットーニ(MUTTONI)は、学生時代友人に「描く絵の色使いがイタリアっぽい」と言われたことがきっかけ。また本人だけでなく、彼が創り出す作品そのものを「ムットーニ」と称することも。2007年4月より2011年3月まで大阪成蹊大学芸術学部美術学科客員教授。作品集に『ムットーニの不思議人形館』『ムットーニスモ』『ムットーニ・カフェ』『ムットーニ おはなしの小部屋』などがある。

MUTTONI

ムットーニの愛称で知られる自動人形作家、武藤政彦氏は、自身の作品を「立体のカラクリ箱であり、動き・光り・そして音楽などの要素が絡み合った、小さなストーリーボックス」であると語る。高校の教科書で萩原朔太郎の詩と衝撃的な出会いを果たした武藤氏は、その後、絵画制作を経て物語を演じる「ストーリーボックス」の制作の道に進む。

1994年、世田谷文学館の依頼により、朔太郎の短編小説「猫町」を自身の作品のモチーフにしたことをきっかけに、武藤氏はあらためて朔太郎の詩に出会い直すことになった。続いて高校時代に出会った「題のない歌」をテーマに、ストーリーボックスを制作。明確な「物語」の輪郭を持たない「詩」をモチーフにする初めての試みだった。

さらに名作「殺人事件」の制作では、言葉による詩のイメージの世界を具体的な形に表現することに大きな困難を感じつつも、作品の独自な解釈を深めながら、自身のストーリーボックスづくりのうちに、それまでに経験したことのなかった喜びと面白さを見出してゆく。

そして武藤氏は、制作のために朔太郎作品を何度となく繰り返し読み込むことを通じ、時代を超えていまもなお静かに迫ってくる朔太郎の孤独とその「帰るべき場所」への想いに、一人の人間として強い共感を覚えるようにもなったともいう。

武藤氏の作品には、基本的にコンピュータは使われていない。人形の精緻な動きや照明調光など、一切がモーターと歯車による手作りの機構により制御されている。そこにはブラックボックスはないと武藤氏は言う。武藤氏にはまた、五感を駆使し、「メカの気分」を汲み取りながら制作するという、その制作スタイルとストーリーボックスの舞台裏を紹介していただいた。

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